涙を流さなくなっただけです

やっと観てきました、神様のカルテ




わたしは医療に携わる人間ではないし、志しているわけでもないけれど、イチが医者として悩む姿に自分を重ねずにはいられなかった。イチが悩むその先に、答えはないじゃないですか。きっとイチは、どういう決断をしたって「これでいいのか」って悩むと思うの。悩むことから目を逸らせないイチは、人一倍傷ついたり苦しんだりして生きてきたのかもしれない。誰かはそれを「不器用な生き方」だって言うのかもしれない。でも、そんな傷や苦しみから逃げないイチは、強くて優しかった。そんなイチを見ていたら、不器用だっていいじゃないかと思えたよ。

イチとハル、かわいい夫婦でした。泣かなくなったイチの、心の涙に気づいてあげられるハル。それは安曇さんにとっての一止かもしれないし、もしかしたらリカちゃんにとっての安曇さんかもしれない。さいご、安曇さんからの手紙に涙していたイチが、ハルを見た瞬間に溢れだしてしまうシーンがとてもとても好きです。好きという表現が正しいのか分からないけど、このシーンに言葉はいらないかなあと思います。あのときのイチ、悲しくて泣いてたわけでも嬉しくて泣いてたわけでもないでしょ。じゃあなんで泣いてたの?って聞いても、きっと答えられない。そんな涙を流すイチの背中を、なにも言わずさすってあげるハル、という2人。やっぱり一言では表せないよ。わたしも、きっと誰かに背中をさすってもらって生きてる。

辻井さんの優しいピアノが流れるエンドロール、クレジットされた”櫻井翔”の文字をぼんやり見ていました。そんで、ああ、しょうくんがこのイチさんを悩みぬいて演じたんだなーって思ったらまたじんわり涙が。しょうくん、よかったよ。わたしはあらしの芝居作品を見るうえで、客観的な目を忘れないように一般の方の感想をよく読みます。それで、意見は意見として受け止めてる。でも、今回はそういう他の人の感想が気にならないんです。わたし自身が、イチに、心を動かされる瞬間が確かにあったから。それがすべてじゃん、って。そして何より「また一緒にやりましょう」っていう監督の言葉が嬉しかった。わたしがこんなに嬉しかったんだから、しょうくんはどんなに嬉しかっただろうなあ。素敵な作品に出会えてよかったね。ほんとに、いい映画でした。